「AIDMA(アイドマ)の法則」を展示会の集客に活用した成功事例
「AIDMA(アイドマ)の法則」は、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールが提唱した消費者の購買心理のプロセスを表した言葉の頭文字を取った造語です。
そのプロセスは以下のとおりです。
- Attention(注意)
- Interest(関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
5つの項目は、それぞれ購買行動の各段階に区分され、Attentionは「認知段階」、Interest、Desire、Memoryは「感情段階」、Actionは「行動段階」となっています。
私は、この「AIDMAの法則」を、展示会に訪れる来場者の購買心理のプロセスに当てはめ、ブースへの集客から商談までの各段階に活用しています。
具体的には、
- Attention(注意)=「えっ!?どういうこと!?」(※認知段階)
- Interest(関心)=「わが社に役立ちそうなことがあるかも…」(※感情段階)
- Desire(欲求)=「取引を検討したい」(※感情段階)
- Memory(記憶)=「○○について相談してみよう。」(※感情段階)
- Action(行動)=「前向きに検討したい」(※行動段階)
となります。
では、展示会において「AIDMAの法則」がどれくらい効果性が高いかを、実際の展示会の事例をもとに順にご説明します。
1.Attention(注意)=「えっ!?どういうこと!?」
展示会場内は、各企業のブースから発信される大量の情報で溢れかえっています。そうした状況の中でやるべきことは、まずは来場者に、自社のブースに目を止めてもらうことです。そのための第1段階が、【Attention=注意】です。
CASE1:マンガレンタル会社「置くだけで客室回転率が30%UP!」
この事例では、会場内を歩いている来場者から一番目に付くブースの両サイドに、マンガ(コミック本)の陳列棚を配置することで「なんで、マンガが置いてあるの?」と注目させました。さらに、その上部に「置くだけで客室回転率が30%UP!」というキャッチコピーを掲げることで注意を喚起しました。
ホテルにとって客室回転率を上げていくことは経営の生命線であり、常に付きまとう経営課題です。だからと言って、それを改善するために掛けられるコストには限りがあります。そこで、コストや手間を掛けず客室回転率が大幅に上がる方法を提案すれば、そうしたニーズのある来場者はブースの前を素通りできないだろうと考えたのです。
マンガという意外性とユニークさ、キャッチコピーには「置くだけ」という簡単さと、「30%UP」という具体的な数字を入れて訴求したことで、「えっ!どういうこと!?」「もう少し詳しく知りたい!」となるのです」
CASE2:メッキ加工会社「クワガタにでもメッキできる技術力」
この事例では、来場者の注意を引くため、クワガタにメッキ加工を施すことにしました。事前のリサーチで来場者の多くが男性であることが分かっていたので、子供の頃に憧れたクワガタをメタリックに装飾すれば、忘れかけた好奇心を呼び覚まされるのではないかと踏んだのです。
結果は予想通り。金ピカに光り輝くクワガタは、多くの来場者への強いインパクトを与え、抜群の集客効果をもたらしました。
2.Interest(関心)=
「わが社に役立ちそうなことがあるかも…」
せっかく集めた来場者がそのまま立ち去ってしまわないように、更なる関心を抱かせる必要があります。それには、まず、「わが社に役立ちそうなことがあるかもしれないぞ…」と思わせ、ブースの奥へと足を向けさせるような仕掛けが必要です。
CASE1:マンガレンタル会社
「回転率の悪いお部屋をマンガルームにしてみませんか?」
【Attention=注意】の項目で紹介したマンガレンタル会社の続きです。マンガ(コミック本)の展示と、キャッチコピーで引き付けた来場者を見込み客へと変えるためには、ブースの奥へと歩を進めてもらえるような施策を考えておく必要があります。そこで、ブースの一番奥の壁に、「回転率の悪いお部屋をマンガルームにしてみませんか?」という、はじめのキャッチコピーから繋がる第2のキャッチコピーを掲げるのです。
はじめのキャッチコピーでは、「置くだけで客室回転率30%UP!」というメリットを伝え、回転率の悪い部屋を何とかしたいと思っている来場者の足を止めさせましたが、それだけでは具体的にどういうことなのかまだハッキリしません。しかし、2番目のキャッチコピーを見た瞬間、「マンガルーム?そういうことかぁ」となるのです。
レジャーホテルにとってのメインターゲットは20代~30代の若者層です。そこで、回転率の悪い部屋を、その若者層に人気の高いマンガを取り揃えたマンガルームにしてみてはどうか、と提案すれば、関心を示すだろうと考えたのです。
結果は予想通り、多くの来場者に「これは、面白そうなアイデアだ!」「もう少し、詳しい内容を聞いてみたいなぁ」と興味関心を示してもらえました。
CASE2:メッキ加工会社「メッキのお悩み相談会ただいま実施中!」
メッキ加工会社の続きですが、このケースも、基本的には先ほどのマンガレンタル会社の事例と同様です。金ピカのクワガタに興味を持ってくれた来場者の中には、何らかのメッキ製品に対する悩みや不満を抱えている能性が高いと言えます。
そうした人は、ブース内の「メッキのお悩み相談会ただいま実施中!」の言葉が気になるので、展示してある様々なメッキ製品について、あれこれと質問をしたいと思い、ブースの奥へと自然に足が向くはずです。
ただし、注意しなければいけない点があります。それは、まだ関心を示していない来場者に対し、こちらからあれこれ説明をしないことです。押し付けがましい応対は、かえってお客様を遠ざけてしまうことになります。
3.Desire(欲求)=「取引を検討したい」
【Desire=欲求】を高めるためのテクニックは、【Attention=注意】とも密接に関わってきます。それは、自社の商品・サービスが持つ「ウリ」です。そして、「ウリ」の中でも、自社だけの独自の「ウリ」のことを、「USP(ユニーク・セリング・プロポジション)」と呼びます。展示会を戦略的に進め成功させるためには、この「USP」が肝となってきます。
USPとは、1950年代に歴史に残る広告キャンペーンを成功させ、のちにアメリカ広告界の巨匠と呼ばれたロッサー・リーブスが提唱した伝説の広告技法です。日本でもお馴染みとなったM&M‘sチョコレートの有名な『口でとろけて手にとけない』のキャッチコピーは、会社を躍進させる原動力となりました。
「USP」=「独自のウリの提案」と呼び、自社の商品・サービスの他との違いを明確に伝えられる威力を持つことができます。
AIDMAの法則において、【Attention=注意】と【Desire=欲求】は肝となる部分です。そのためには、来場者から一番目に付くパネルで、提案したい商品のウリを一言でズバッと伝えられるか否かが鍵となります。しかしながら、展示会で自社のウリをお客様のメリットとして伝えている企業はまず見かけることはありません。
USPは、上手く表現できない自社の商品・サービスにあるウリを、顧客メリットとして一瞬で伝える技術とも言えるのです。では、どのようにUSPを見つけ出せばいいのか?改めて事例を振り返って説明していきます。
事例その①:メッキ加工会社の場合「クワガタにでもメッキできる技術」
この「クワガタにでもメッキできる技術」を言い方を変えれば、「弊社には、クワガタのような自然の生き物にある複雑な造形や、曲線の美しさを損なわない優れたメッキ加工技術があるので、例えどんなに小さく複雑な物にでもメッキできますよ。」と伝えていることになるのです。
これはUSP=独自のウリの提案になります。さらには、「そんなことができるのだったら、こういうこともできるの?」ということを喚起するように主張しているのです。
事例その②:プラスチック鉢メーカーの場合
「仕入れは100円ショップ以下、売り値は相場より20%以上」
園芸店が花の鉢植え販売する時、花以外の商品原価を抑えるため、仕入れコストの低い100円ショップでプラスチック鉢を購入していることが分かっていました。しかし、100円ショップのプラスチック鉢はデザインやクオリティの面で見劣りするため、100円ショップにはないデザインとクォリティの高い製品を、より低価格で販売すれば園芸店のニーズを掴めるのではないかと考えたのです。
また、既に採用していただいていた園芸店から、このプラスチック鉢に植えた商品は今までのものよりも、2割以上も高い価格を設定しても売れる、という声を聞いていたため、これら2つのメリットを明確に伝えられる
「仕入れは100円ショップ以下、売り値は相場より20%以上」という主張をUSPとしました。
4.Memory(記憶)=
「○○について相談してみよう。」
ここでのポイントは資料の作り込みです。
資料の中身として用意しておくものは、次の5つです。
① パンフレット
② ビフォーアフターの事例
③ お客さまの声
④ マスコミ掲載履歴
⑤ 特別オファー(特典)
過去に様々なパターンをテストした結果、この5つの資料を揃えた場合に最も高い反応が得られことが分かっています。
資料を入れる封筒やパンフレット、チラシについては、デザインを統一するだけでなく一貫してUSPを伝えるのがポイントです。そして、個々に渡す資料には、必ずUSPを補完する情報を載せます。
商品を使ったビフォーアフターがある場合は、事例集としてまとめたものを資料として用意しておくと良いでしょう。
この人工芝のメーカーでは、いくつかの施工現場の写真をビフォーアフター事例としてまとめています。
さらに、施工されたお客さまの声も資料として同封した上で、人口芝生のサンプルを特別オファーとしてお渡ししています。その中には、発注依頼書が同梱されており、こういった、お客様がオーダーしやすくするための施策を準備しておくことはとても重要です。
5.Action(行動させる)=「前向きに検討したい」
検討段階にある見込み客から最終的な受注を獲得していくためには、その後の行動の階段設計を事前に検討しておく必要があります。
もし、具体的な階段の設計の方法が分からないのであれば、過去にどのような営業プロセスを経て契約まで至っているのかを分析すればよいのです。契約までの営業プロセスがどういった要素から構築されているのを把握しておくことで、そのうちのどこまでを展示会で実行する方が良いのかが決まってくるはずです。併せて、どれくらいの割合の見込み客が成約に至っているのかも把握しておけば、展示会で何社の見込み客を集めれば良いのか、数字が見えてきます。
営業プロセスの階段設計は逆算の思考です。
例えて言うならば、一流のプロゴルファーのそれと同じです。一流のプロゴルファーは必ずカップから考えます。一方で、アマチュアはティーグラウンドからしか考えません。一流のプロは、最少打数でカップに入れるためにすべてのショットをカップからイメージしていきます。グリーンのどこにボールを落としたほうがベストか。その前に打つショットはどこに運ぶべきかというようにすべてを逆算して考えていくのです。
これは、ビジネスにおいても同様です。
「契約を取るためには工場見学が必要だよな。その前には見積もりと商談が必要だよな。そうすると資料請求をしてもらわないと駄目だな。だとすると展示会が有効だよな。」
という逆算が成り立ちます。
どこまでを展示会でやっていて、どうやって資料請求させて、見積もり、商談、契約までの階段をいかに登らせるかを設計した上で展示会に臨む必要があるのです。
次のページでは、展示ブースの装飾とパネルレイアウトについてお伝えします。
展示会のブース設営でやってはいけない装飾とパネルレイアウト>>>
売上74倍を達成した原動力『戦略的展示会出展法』小冊子
展示会を成功させるためのノウハウを冊子にまとめました。
これ1冊で、戦略的に展示会に出展し、成功へ導くための方法が体系的に理解できます。
■目次
第1章 展示会でよくある6つの間違い
第2章 展示会の成功事例
第3章 展示会成功のための戦術
第4章 ケーススタディ(出展までの生々しい企画)
第5章 成功への階段を登る!開拓までの4つのステップ
B5版 69ページ
定価:700円+税
著者 加藤洋一
企画・編集 株式会社 U.S.P
URL https://www.usptool.com
発行所 ミチテラス出版